熟成魚のプロフェッショナルが「熟成鮨」を探求! 東京・広尾の看板のない鮨店『熟成鮨 万』
Summary
1.ネタは熟成した魚介のみ。まったく新しい鮨をおまかせで味わう
2.うまみと香りを最大限に引き出す独自の技術をカウンター越しに体験
3.看板のないプレミアムな空間だが、気取りない雰囲気
名店が点在する広尾エリアにまた1店、注目すべき店が誕生!
「今夜は鮨にしよう」となった時、何を基準に店を選ぶだろうか。少々値が張っても安心の老舗、家近くの馴染み店などさまざまだろうが、トレンドで鮨屋を選ぶなら、今はここしかない! まだ手がける人が少ない「熟成鮨」の専門店だ。
総檜(ひのき)のカウンター内で、たくましい腕を振るいつつ迎えてくれるのは、大将の白山 洸(しらやま あきら)さん。“大阪鮨”を皮切りに江戸前鮨、そして熟成鮨を追求してきた、若干29歳の新鋭鮨職人だ。漁師家系に育ち、子どもの頃の食卓は魚が中心で、「鶏肉の唐揚げが食べたい」と思い育ったという生い立ちがユニーク。
鮨が好きで、「鮨職人になれば毎日鮨が食べられる」と思い、鮨屋に就職。しかし、修業中の身で鮨をたらふく食べられるはずがない。
「給料が出たら、休日は鮨の食べ歩きをしていました。ある日訪ねた店で、鯛の食べ比べをさせてもらったんです。仕入れた直後の鯛と、3日目の鯛。当然仕入れたばかりのほうがおいしいと思ったら、3日目のほうが断然おいしくて、びっくり! ということは1週間経てばもっとおいしくなるのでは? と、味の変化に興味がわいたんです」
当時18歳の白山さん。寮の部屋で鮮魚を並べ、30分おきに試食を繰り返し、味の変化を研究し始めた。「まだ熟成という言葉すら知らず、何が原因でどんな風に劣化するのか、知りたかったんです」。
以降、劣化と熟成の狭間(はざま)で、最高においしい瞬間を求め続けた。
たどり着いたのは「僕の熟成」!
熟成を指導してくれる師匠はいない。理論と経験に基づき、ただひたすら独学を続けてきたという。
仕込み中を覗いたら、ちょうど立派なブリをさばいている最中。
ブリは、白山さんが好きなネタの一つだ。産地は北海道から始まり、富山県の氷見へと続くが、こちらは北海道羅臼産。
「熟成をはじめて28日目です。これから塩漬けにしてあげるんです」と、大きくやさしい手で魚に触れる。
丁寧に包丁を入れながら、白山さんはゆっくり熟成についての説明をする。「熟成を続けると全体の3~4割は雑味になります。もったいないと思われるかもしれませんが、捨ててしまいます」。
熟成庫の温度は、0度~5度。0度でうまみを引き出したのち、少し高くすると香りが出てくるという。また、例えば「ウニ」は低めが適正温度で、高くするとうまみも香りも出ないことなど、素材ごとの熟成の違いを習得している。
「一つひとつ状態を見ながら、1日1回はひっくり返し、しょっちゅう庫内を移動させています。僕が作りたいお鮨は、こうして時間をかけて、魚介の本当のおいしさを引き出して握るお鮨なんです」
大切なのは、シャリにあう熟成
シャリは、長野県飯山の小さな村で作っているコシヒカリ。秋晴れの空の下で天日乾燥した米を、さらに半年寝かし、甘みが深まったものを使う。精米加減は、八分つき。さっと洗い0.8倍の水を加え、羽釜(写真上)で圧力をかけて一気に炊き上げる。
「パツンと芯が残るくらいのタイミングで火を止めます」。
こうして理想通りに炊いた米に合わせる酢は、京都府・天橋立近くで醸造される「富士酢」の「赤酢プレミアム」と「米酢」の2種類。これに、塩味がまろやかな広島産の藻塩を加えている。お米の味を引き出してくれるこの合わせ酢が、八分つきのコシヒカリに馴染むと、うっすらべっ甲色をしたシャリの完成だ。
このべっぴんなシャリと熟成魚が、大将・白山さんの手にかかると、どうなるのだろう。目の前に登場する熟成鮨をお目にかけよう。
おまかせコースのトップバッターは「マグロ」
白山さんの仕立てるコースは、熟成鮨・一品料理・熟成鮨・一品料理・熟成鮨・一品料理・巻物と玉(ぎょく)という、鮨懐石のような構成で進む。熟成鮨は握りだけで合計15種類も登場するボリュームだ。
トップバッターは、なんと「マグロ」。白山さんが、「ここのマグロは日本一だと思っている」と断言するマグロ専門仲卸『やま幸(ゆき)』から届いた青森県大間の本マグロの中トロで、25日熟成だ。
「鮨屋は、マグロが主役で最初に出すところはないでしょう。うちは他に主役がたくさんあって、本当はマグロがなくてもいいのだけれど、僕がマグロが大好きで」と、白山さんは言う。
「ネタで変える」と言うシャリの温度は、37°ほどの人肌。
醤油は、福岡県糸島市で家族が営む『ミツル醤油醸造元』より、濃口と再仕込みをブレンドし、煮切った日本酒を合わせている。どの握りも白山さんの手によって醤油をつけて供される。
一品料理は、例えば「あん肝の茶碗蒸し、毛ガニあん」(写真上)、「アンコウと大蔵大根の白味噌煮」や揚げ物など、季節感あるものが登場。
一品料理の後、再び、熟成鮨が登場する。写真上の、透明度が高くみずみずしいネタは、山口県産の「クエ」。熟成32日目で、熟成前より増したねっとり感、深い甘みが口中に広がる。
続いて、「マグロの大トロ」の蛇腹(じゃばら)部分だ。大きなマグロは熟成させることでスジも脂身に同化していく。すると甘みがふくよかになる。中トロは37°だったシャリの温度、脂身が多くなる大トロは少し高めの41°で握る。
プリプリの「筋子」は、30日熟成。熟成の途中で一度醤油につけていて、魚卵のこっくりとした味がより活きている。
いよいよ、最初にさばいていた大きなブリを握る。周囲の身は大胆に取り除き、中心に近いきれいな色の部分を使う。
きれいな薄ピンクのネタは、熟成35日目の「北海道羅臼産ブリ」(写真上)だ。熟成により新鮮な脂が生まれたかのようで、活き活きした鮮度すら感じてしまう。うまみがゆっくり舌の上を転がる、その余韻の長いことといったら……。お酒と一緒に味わうと、唸るしかない。
白衣ではなく、黒いユニフォームで迎えてくれる気さくな大将・白山さん。「白でバシッと決めると緊張しちゃうじゃないですか。熟成鮨は高級なものだけれど、リラックスして召し上がっていただきたいんです」。
個室は4~5人に好都合だが、2人での利用も可能。個室へはカウンター席の後ろを通らずに入店でき、お忍びでこっそり通いたい人に喜ばれている。トレンディな熟成鮨、気になったらすぐに予約して、体感しようではないか。
【メニュー】
おまかせコース 23,000円~
グラスワイン 1,000円~
※22時以降は「おこのみ」可
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
熟成鮨 万(よろず)
住所
〒150-0011 東京都渋谷区東4-6-5 ヴァビル301
電話番号
03-6712-6744
営業時間
18:00~24:30
定休日
日曜
公式サイト
上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。