名著「すし通」から読み取るお鮨の歴史 <SUSHI TIMES ORIGINALS>
最近一人でお鮨を食べていると同じカウンターで他のお客さんとお話することがあるの。そんな時に使える話題が欲しいの。つかさくん、お鮨好きな人とお話できそうな何か良いネタはないかしら?
ネタ‥ね(笑)鮨好きの人が必ず読んでいるような本は読んでおくと良いと思うよ。
昭和五年に世に出た、鮨の名著「すし通」。現代の僕たちが読んでも大変新鮮で、学ぶところの多い名著だよ。
中には鮨の起源や、当時のうまい食材や鮨を食べる側の心構えなどが書いてあるよ。難しそうに見えるかもしれないけれど挿絵も多くカジュアルな内容だからおすしちゃんにもオススメ。例えばここに書かれているちょっとした豆知識なんだけど、著者の氏がお鮨には「やすけ」や「すもじ」といった別称があるんだって知っている?
へえ〜。知らなーい!教えて!
弥助(やすけ)
ー鮨のことを関西方面の男は「やすけ」というが、それは芝居の義経千本桜鮨屋の場に出てくる主人公弥助(やすけ)から起こった名前である。
大正の末から昭和にかけ、寿司屋で出前を注文する人が増えた時代、男性は家に届いた寿司のことを「弥助(やすけ)」と呼んでいたんだ。この「弥助」は江戸時代に大人気を博したお芝居「義経千本桜」の「鮨屋の場」に由来してるんだ。
画像出典:https://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/vm/2019UKIYOE2/2019/11/post-40.html
ある鮨屋に雇われている弥助という青年が鮨屋の娘お里さんに恋心を抱かれる。しかしその弥助という青年は実は平維盛が戦に敗れてしばし世を忍ぶ姿だった・・・という話なんだ。
この劇中に描かれている鮨屋には実在するモデルがあるんだよ。奈良県の下市村にある「つるべすし弥助」なんだ。「釣瓶ずし」の名は室町後期から散見されるがけれど、この家は江戸初期にすし専業になり、代々当主が弥助を称したので,〈弥助鮓〉ともいったんだ。俗にすしを〈弥助〉と呼ぶのはこのためだと言われている。
https://gurutabi.gnavi.co.jp/a/a_1148/
確かに「弥助」という名がつくお鮨屋さんは結構あるけど、江戸時代のお芝居が起源だったのね。ところであらすじを読んだけれど、このお里ちゃん、弥助に惚れ込んでたのに身分の違いを知って、失恋し傷つきながらも必死で彼を逃すのね。。愛の力よね・・素敵なお話じゃない。
さすが連日超満員のお芝居だけあるよね。この弥助にまつわる話は過去記事にも詳しく書いてあるよ。
すもじ
ー関西の女がよく鮨のことを「おすもじ」というが、「すもじ」は「酢文字」であって、酢をバラ撒くような意味からできた鮨の女房言葉である。
「鮨」には女性言葉があるんだ。「おすもじ」というんだけど、これは室町時代からあった言葉で、女性(女房)が鮨のことを表す時に使った表現なんだよ。
言葉の最後に「もじ」を付ける例が多数あるんだけど、これは「もじ」が直接的な表現を避け、婉曲的に言い表す文字詞(もじことば)だからなんだ。
「すし」の「す」に「もじ」を足して「すのもじ」→「すもじ」になり、さらに丁寧に表現するため「お」が加えられ「おすもじ」になったんだ。省略形や擬態語・擬音語、比喩などの表現を用いる。優美で上品な言葉遣いとされ、主に衣食住に関する事物について用いられた。のちに将軍家に仕える女性・侍女に伝わり、武家や町家の女性へ、さらに男性へと広まったんだよ。
画像出典:https://edo-g.com/blog/2015/11/sushi.html
なるほど。当時の女性はなるべく回りくどく丁寧に聞こえる言葉遣いを好んでいたのね。現代の私達にはちょっと馴染みがない感じ。
そんなことはないよ。女房言葉(にょうぼうことば)とは、室町時代初期頃から宮中や院に仕える女房が使い始め、その一部は現在でも用いられる隠語的な言葉なんだ。その使い方には2パターンあって、言葉の最後に「もじ」を付けることもあれば、言葉の最初に「お」を付けることもある。「おすし」以外にも「おかか」「おこわ(強飯)」「おかず」「おじや」なんてのは今でも普通に使うでしょう。
そうか!言葉の最初に「お」を使うのも女房言葉なのね。優美に聞こえるなら私もどんどん使って行くわ!
‥適度に使うから優美なんだと思うけど、まあいいや。お鮨が日本人の歴史と深いつながりを持って愛されていた食べ物だということがよくわかるよね。おすしちゃんがちゃんと本を読んでくれるか不安だから、また機会をみて豆知識を解説していくよ。
<文>
SUSHI TIMES編集部
<出典>
「すし通」永瀬牙之輔 土曜文庫